道徳律の制定
　アメリカは，移民によって構成されている国です。移民の大部分は，貧しい階層に属しており，思想的な自由とともに，金持ちになることを夢みていました。資本を蓄積した者のみが成功者となる徹底した資本主義は，数多くのアメリカンドリームを生み出すとともに，商道徳と職業倫理の低下という悪弊をもたらしたのです。
　資本主義は，経済体制であると共に政治体制でもあります。極端な資本主義経済においては，所謂「小さな政府」の下に衣食住，医療，教育，自衛に至る生活の全てについて，自分が獲得した資本の範囲で自己責任を負うことが原則です。２０世紀初頭のアメリカが目指していた経済社会は，このようなものであったことは容易に想像できることです。
　当時のアメリカ人の最大の関心事は，如何にして金を儲けるかにあり，金儲けの手段は不問に附されることがしばしばでした。このようなアメリカにおいて，事業を成功させ，永続的に発展させる指針として，ロータリーのモットーを発表したことは衝撃的なことでした。
親睦を出発点として創設されたロータリー運動は，その進化の過程において，１９１１年のロータリー・モットーの採用によって，その目的を奉仕に転換することとなり，１９１５年のサンフランシスコ大会で「道徳律」が採択されました。この道徳律は，一部が聖書の「マタイ伝」からの引用されたもので，宗教色が強いとの理由で，使用停止になるのですが，その後に制定された「職業宣言」などに比べると，道徳律の方が解りやすいと評価されています。いずれにしても，この道徳律が採択された後のロータリー運動は，道徳律を如何に自分の事業所や所属する業界に広めるかという運動に転換されたと言われています。道徳律の全１１章のうち，宗教色がなく現代でも通じるものを紹介します。
３　自分は企業経営者であるが故に，成功したいという大志を抱いていることを自覚すること。しかし，自分は道徳を重んじる人間であり，最高の正義と道徳に基づかない成功は，全く望まないこと。
６　自分の同業者よりも同等またはそれに優る完全なサービスをすることを心がけて，事業を行うこと。やり方に疑いがある場合は，負担や義務の厳密な範囲を超えて，サービスを付け加えること。
７　専門職種または企業経営者の最も大きな財産の一つこそ，友人であり，友情を通じて得られたものこそ卓越した倫理にかなった正当なものであることを理解すること。
８　真の友人はお互いに何も要求するものではない。利益のために友人関係の信頼を濫用することは，ロータリーの精神に相容れず，道徳律を冒涜するものであると考えること。
９　社会秩序の上で，他の人たちが絶対に否定するような機会を不正に利用することによって，非合法的または非道徳的な個人的成功を確保することを考えてはならない。