本日は，冨樫龍紀ガバナー，細谷重直中区ガバナー補佐，大曲ロータリークラブの佐藤力様をお迎えしております。ガバナーの公式訪問にちなんで，創設期のロータリークラブの連合会についてお話しすることにいたします。
　ポール・ハリスは，１９０７年シカゴ・クラブの会長に就任すると，それまでの活動方針を大きく転換し，会員増強と他の都市での新クラブの設立と地域社会への奉仕活動を提案しました。
　第一の会員増強は，入会希望者が殺到していたことから比較的容易に達成できたのですが，他の二つは簡単には進展しませんでした。
　ポール・ハリスは，ある商工会の集まりでシカゴの中心部に公衆トイレがないことから通行人は不便な思いをしているという話しを聞き，奉仕活動を実践する絶好の機会と思ったのです。シカゴ・クラブは，シカゴ市内のホテルに市民団体の代表を集め，公衆トイレ建設委員会を設立して行政に働きかけましたが，既に，施設内にトイレを持っていることを理由にシカゴ醸造組合と百貨店組合から激しい妨害を受けました。当時，シカゴ中心部で顧客にトイレを提供していたのは，百貨店かバーしかなく，トイレを借りる必要に迫られた通行人は，女性は百貨店で化粧品を買い，男性はビールを一杯飲んで，トイレを借りたのです。無料のトイレができれば，これらの店の売り上げに影響を与えます。
　シカゴ・クラブは，最終的に，公衆トイレの建設用地と２０，０００ドルの補助金を市当局から受け取ることに成功し，１９０９年に市役所と公立図書館の横に二つの公衆トイレを建設しました。公衆トイレの建設は，市民のニーズにしたがって市民団体を組織して，行政当局に働きかけて実現したもので，単に金銭を拠出した団体奉仕活動ではなかったのです。
　ところが，この奉仕活動は親睦一辺倒であったロータリークラブが初めて行ったもので，以後数年間にわたり，シカゴ・クラブは親睦と奉仕を巡り大揺れに揺れることになりました。当時のシカゴ・クラブの会員数は約１５０名で，大半は，親睦と互恵を目的に入会したのですが，突然，奉仕という概念が導入されたのですから，混乱するのは無理もないことです。
　ポール・ハリスの方針変更に賛成したのは，ドナルド・カーターやアーサー・フリデリック・シェルドンなどの少数派であり，シカゴ・クラブ内で圧倒的多数を占めていたのは，「親睦・互恵派」でした。ポール・ハリスとこの「親睦・互恵派」との論争は激烈なもので，ポール・ハリスはシカゴ・クラブを拠点としたロータリー活動を断念し，サンフランシスコ，オークランド，シアトル，ロスアンゼルスに新クラブを設立したのです。その後，ニューヨーク，ボストン，ポートランド，ミネアポリス，セントポールに新クラブが誕生しました。
　ポール・ハリスが思い描いたロータリーの将来像は，シカゴ・クラブの現実とは大きく掛け離れたものになりました。その結果，親睦と物質的互恵に満足しきってその城に止まろうとしたシカゴ・クラブの大多数の会員の意識改革を待つことを諦めて，会員増強，積極的な拡大，奉仕概念の確立を目標とする仲間と新しい組織を作る方向を辿らざるを得なかったのです。
　親睦の場としてのロータリークラブと奉仕概念を追求し，積極的拡大を図る場としての連合会を分離して，無用の混乱を起こさないようにするという配慮から連合会の設立構想が生まれたのです。