アーサー・フレデリック・シェルドンの奉仕理念
1908年にシカゴ・クラブに入会したシェルドンは,会員間の互恵取引を禁止する代わりに,奉仕理念を提唱し,ロータリーがこれを採択して,物質的相互扶助から決別したことにより,その後の華々しい発展がもたらされたのです。
シェルドンは,継続的な事業の発展を達成するためには,自分の儲けを優先するのではなく自分の職業を通じて社会に貢献するという意図をもって事業を営む,すなわち会社経営を経営学の実践だと捉えて,原理原則に基づいた企業経営をするべきであると提唱しました。さらに,良好な労働環境を提供するのは資本家の責務であるとして資本家が利益を独占するのではなく,従業員や取引に関係する人たちと適正に再配分することが継続的に利益を得る方法であると提唱しました。
資本主義がもたらす社会矛盾や害悪を資本主義の枠内で克服するために考えられたのが修正資本主義です。修正資本主義は,学問的には,イギリスのケインズが1936年に刊行された「雇用・利子および貨幣の一般理論」という著書において,資本主義のもたらす貧困,失業,恐慌などの社会矛盾や害悪は,資本主義制度そのものを変えなくても,ニューデール政策やマクロ政策の展開,政府による公共投資などによって企業家のマインドを改善することで,緩和し,克服することができると論じています。シェルドンの奉仕理念は,このケインズの理論に30年以上も先行していたのです。 シェルドンは,どんな手段を講じようとも,富を得た者が成功者として賞賛された19世紀の利己的な経営手段を批判するとともに,単に自分だけが儲けようという商売ではなく,商売とは他人に対してサービスすることであることを力説したのです。シェルドンは,出店と廃業がめまぐるしく繰り返される過酷な自由競争の中で,持続的に繁栄し発展し続けるいくつかの企業に共通して見られる特徴が「サービス」にあることを着目したのです。価格が安いことだけがサービスではなく,店主や従業員の顧客への態度や気配り,商品や業務に対する責任,顧客が感じる満足感と公平感,これらの全部がサービスであり,サービスこそが企業の永続的発展と成功を保証することに気が付いたのです。
事業上得た利益は,決して自分一人で得た利益ではありません。従業員,取引先,下請企業,顧客,同業者など,自分の事業と関係を持つ全ての人々のおかげで得たことを感謝し,その利益を適正にシェアする心を持って事業を営めば,必ず最高の利益が得られることを自分の職場で実証し,その方法こそが正しいやり方であることを地域全体の職業人に伝えていかなければならないというのがシェルドンの奉仕理念なのです。