相続法改正(その3) 自筆証書遺言の方式緩和
自筆証書遺言は,厳格な要式行為とされております。これは,遺言は,効力発生時点において,遺言を作成した遺言者が死亡していることから,遺言を作成した際の意思を作成者本人に確認することできないので,遺言者の意思の正確さ・確実さを担保するためです。
そこで,民法は,自筆証書遺言は,遺言者がその全文,日付及び氏名を自書し,これに押印することを要求しております。自筆証書遺言について,厳格な自書要件を課することは,遺言者の最終意思を担保することにはなりますが,反面,自筆証書遺言を作成することの簡便さや便利さはなくなり,勢い,自筆証書遺言は利用されない傾向にあります。今回の民法改正は,自筆証書遺言の利用を促進するために,遺言に添付する財産目録について,自筆であることを要しないと定めたのです。
現実に高齢の遺言者が,複数の不動産等を有する場合に自筆証書遺言の財産目録を作成することは,かなりの手間がかかり,自筆証書遺言の簡便性が損なわれることが多かったと指摘されております。遺言の形式は,自筆証書遺言の外に,秘密証書遺言と公正証書遺言がありますが,自筆証書遺言だけが,遺言者が単独で作成することができる方式で,関与する者の数の点では,最も簡便性が高い方式ですが,現実には,財産目録の作成は相当に手間がかかる作業で,これを簡易にすることは自筆証書遺言を利用しやすくなったと評価することができます。
財産目録の作成方法には制約がないことから,パソコン等による作成,遺言者以外の第三者による代筆,不動産の登記事項証明書,預金通帳のコピー等を添付して目録とすることも可能と言われております。
ただし,財産目録の添付の方法は,遺言者による財産目録の全頁への署名・押印が必要ですから,その方法はネットなどで十分に確認して頂いた方がよろしいと思います。なお,この自筆証書遺言の方式緩和は,既に,今年の1月13日から施行されております。
自筆証書遺言の利用を促進する結果,他の遺言の方式である公正証書遺言は減少する可能性があり,法務省の権益に影響がありそうですが,自筆証書遺言の保管制度を新設することにより,新たな仕事を作り出しています。