人質司法
今週は,4月2日から4日まで東京に出張しておりました。昨日,有楽町線の桜田門駅の地上出口から,法務省本館(赤レンガの建物)の正門前を通って,東京地裁方向に歩いていたところ,約20名の報道カメラを持った一団に遭遇しました。 本日の朝日新聞によれば,4回目に逮捕されたカルロス・ゴーン被告を乗せた車両がこの正門を通って,東京地検に向かったようです。別件で保釈中の被告人が再逮捕されることは非常に珍しいことで,勾留請求に対する東京地裁の判断が注目されるところです。
我が国の保釈制度は「人質司法」と言われ,犯罪事実を認めないと何時までも勾留されるという運用がなされています。本来の刑事訴訟法の建前は,逃亡のおそれと証拠隠滅のおそれがなければ,保釈することになっています。逃亡を防止するのは,保釈保証金の制度です。
証拠隠滅は,検察官が十分な調べをすれば,隠滅するべき証拠がなくなるのが通例で,隠滅の対象となる証拠があること自体が検察官の証拠収集が不十分な証左ですから,原則として保釈を認めるべきであるというのが,現在の保釈の運用を「人質司法」と呼んで批判する勢力の根拠です。
今回の再逮捕は,保釈されている事件とは全く別個のものですから,再逮捕自体は違法ではありませんし,保釈保証金が返還されることもありません。
人質司法という批判は,自白偏重主義が多くの冤罪事件を生み出した原因であるとの反省の下,多くの冤罪事件で警察官による自白のための長時間の取調や自白のための欺罔がなされた経験を踏まえて,全件の取調のビデオカメラによる記録化を実現しました。
しかしながら,取調の記録化だけでは,人質司法による弊害は除去できません。カルロス・ゴーン被告の勾留に対する外国のメディアからの批判を契機として,被告人の保釈を広く認める運用への転換を実現する必要があります。